消費税法の改正~95%ルールを中心に~

1.はじめに

 記念すべき第1回目の特集は、「消費税法の改正」です。
 消費税に係る会計処理や税務処理は、日々の一つ一つの仕訳の積み重ねが極めて重要になってきます。消費税の基本的な考え方を理解した上で、日々の業務にお役立て頂きたいと思います。

2.最近の消費税法改正の動向

 平成23年度の税制改正において、消費税に関する大きな改正が二つありました。
 ひとつは『免税事業者の要件の見直し』で、もうひとつは『仕入税額控除におけるいわゆる95%ルールの見直し』です。
 前者は、特定期間(通常、前事業年度の上半期6月)における課税売上高が1,000万円を超える場合には、その翌期から課税事業者となるよう免税事業者の要件を見直すというものです(ただし、課税売上高に代えて支払給与の額で判定することもできることとされています。)。こちらは平成25年1月1日以後開始する課税期間から適用されます。

免税事業者の要件の見直し

 後者は、課税売上割合が95%以上の場合に課税仕入れ等の全額を仕入税額控除できる制度については、1年間の課税売上高が5億円以下の事業者に限定することとするというものです。こちらは平成24年4月1日以後開始する課税期間から適用されます。
 さらに、平成24年2月に閣議決定された「社会保障・税一体改革素案」では、消費税率の引き上げや、事業者免税点制度及び簡易課税制度について制度の不適切な利用に対処する観点等からの見直しを行うとしています。

3.仕入税額控除のいろいろ

 消費税は生産及び流通のそれぞれの段階で、商品や製品などが販売される都度その販売価格に上乗せされてかかりますが、最終的に税を負担するのは消費者となります。
 従って、納税義務者たる事業者(個人事業者及び法人)が納める消費税は、売り上げに対する税額から仕入れ等に含まれる税額を差し引いて計算されます。

消費税の納付税額
課税期間中の課税売上げに係る消費税額
課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額

 消費税額の計算上、課税売上についてはあまり問題になるところはありません。
 なぜなら、課税売上、免税売上、非課税売上、不課税売上の区別の仕方は、どのような計算方式であっても変わらないからです。
 問題となるのは仕入れに係る控除税額の求め方で、今回の95%ルールの見直しもこちらの論点になります。
 この仕入れに係る控除税額の算定方法はいくつかあって、一定の要件により選択適用のものと強制適用のものとがあります。

平成24年4月1日以後開始課税期間の仕入控除税額算定方法フローチャート

1.みなし仕入率による方法(簡易課税方式)
 簡易課税制度を選択している場合には、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高に対する税額の一定割合を仕入控除税額とみなして算定します。

2.全額控除
 消費税の原則的な考え方に則れば、仕入税額として控除の対象となるのは課税売上げに対応する部分のみとなります。
 しかし課税売上割合が95%以上の場合、事業者の事務負担に配慮し仕入税額の全額について控除が認められています。これがいわゆる「消費税の95%ルール」といわれるものです。
 現行は課税売上割合が95%以上という要件さえ満たせば全額控除が認められますが、平成24年4月1日以後開始の課税期間からは「その課税期間における課税売上高が5億円以下の場合に限る」という要件が追加されました。

3.個別対応方式と一括比例配分方式
 これらの方式は消費税の原則に則り、課税仕入れ等に係る消費税額のうち課税売上げに対応する部分のみを控除する方式です。
 平成24年4月1日以後開始の課税期間からは、課税売上割合が95%未満の事業者に加えて、その課税期間における課税売上高が5億円超の事業者も個別対応方式または一括比例配分方式により仕入控除税額を計算しなければならなくなりました。
 両者は事業者に有利な方を選択することができますが、一括比例配分方式を採用した場合は2年間以上継続適用した後でなければ、個別対応方式に変更できません。

課税売上割合の算定方法

4.個別対応方式・一括比例配分方式

1.個別対応方式
 個別対応方式では、課税仕入高を三つに区分して把握します。
 すなわち、①課税売上げにのみ対応する課税仕入れ、②非課税売上げにのみ対応する課税仕入れ、③課税売上げ・非課税売上げに共通して対応する課税仕入れです。
 ①は当然そのすべてが仕入税額控除の対象となりますし、反対に②はそのすべてが仕入税額控除の対象とはなりません。③については課税売上割合分のみ仕入税額控除の対象となります。

仕入控除税額 = ① + (③ × 課税売上割合)

個別対応方式

2.一括比例配分方式
 一括比例配分方式では、個別対応方式のような課税仕入高の区分経理は行いません。
 単純に、仕入控除税額全体のうち課税売上割合に応じた分が仕入税額控除の対象となります。

仕入控除税額 = 課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税売上割合

一括比例配分方式

3.両方式のどちらを選択するか
 多くの事業者にあっては個別対応方式の方が有利になることが多いのではないかと思われますが、厄介なのは全額控除が適用できなくなる判定基準が「その課税期間における課税売上高が5億円を超えるか」という点にあるということです。
 免税事業者の判定や簡易課税制度の選択適用などは、基準期間(基本的には前々事業年度)の課税売上高が判定材料になるので準備期間がとれます。
 しかし、その課税期間における課税売上高が5億円を超えた場合には、その課税期間の申告から個別対応方式か一括比例配分方式かを選ばなければなりません。どちらか有利な方を選択できるとはいえ、日頃から①課税売上げにのみ対応する課税仕入れ、②非課税売上げにのみ対応する課税仕入れ、③課税売上げ・非課税売上げに共通して対応する課税仕入れの区別をしていなければ、そもそも個別対応方式は取り得ないのです。
 ①~③の区別をするのは面倒だ・事務手数がかかり過ぎるというのであれば、その事務コストに配慮してあえて一括比例配分方式を選択するのも手かもしれませんが、その場合には2年間以上継続適用した後でなければ、個別対応方式に変更することができない点に注意が必要です。

5.実務上の注意点

1.課税仕入れの区分について
 個別対応方式と一括比例配分方式のどちらが有利かを検討するためには、この区分は必ず必要です。経理の体制を個別対応方式に対応できるように整えておけば、まずは問題ないでしょう。
 「うちは非課税売上なんか無いよ」とおっしゃる方がいるかもしれませんが、預金の受取利息も非課税売上に該当します。たとえその金額が全体から見てに著しく小さいものであったとしても、そのことをもって区分が必要ないということにはなりません。仮に非課税売上げにのみ対応する課税仕入れ(以下②とする)が無かったとしても、課税売上げにのみ対応する課税仕入れ(以下①とする)と課税売上げ・非課税売上げに共通して対応する課税仕入れ(以下③とする)は区分する必要があります。

2.区分の判定基準
 ①~③の区分の判定は、消費税の課税取引・非課税取引・不課税取引の判定と同様、勘定科目で分けられるような単純なものではありません。その課税仕入れがどの課税売上げのためのものかは、直接的な対応関係(商品売上と商品仕入など)やその用途等(営業用か管理用かなど)により判断していくことになります。
 例えば広告宣伝費をみてみましょう。
 ある日の朝刊に広告を掲載したとします。これだけでは①~③のいずれに該当するかは判断がつきません。その広告が課税商品のためのものであれば①になりますし、会社のイメージアップを狙ったようなものであれば③になります。

6.おわりに

 消費税に係る経理処理は、本当に日々の積み重ねがものをいいます。決算時にまとめてできるようなものではありません。
 また、消費税は税額が大きく将来的には消費税率の引き上げなども見込まれることから、今後ますます会社に与える影響が大きくなることでしょう。
 経理体制を盤石なものとし会計事務所や税理士と連携することで、来るべき大改正の影響をできるだけ小さくすることが大切です。

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